この記事の結論
能力開発に課題を抱える製造業の事業所のうち、49.7%が「育成しても辞めてしまう」と回答しています(厚生労働省調査)。採用や育成に力を入れても、辞められては積み上がりません。本記事は、育成の前に「辞めない環境をどう設計するか」という視点から、定着と育成の関係を整理します。
定着とは何か ― 採用・育成との違い
定着とは、採用した人材が離職せず、組織の中で役割を担い続けている状態を指します。
採用は「人を迎え入れる」こと、育成は「力をつけてもらう」こと、定着は「その人がここで働き続けたいと思える環境を保つ」ことです。3つは連続していますが、設計のポイントは別物です。採用を増やし、育成に投資しても、定着の設計が抜けていれば、投資した時間と費用がそのまま流出していきます。
事実 ― 製造業の約半数が「育成しても辞めてしまう」
能力開発や人材育成に課題があると回答した製造業の事業所のうち、65.9%が「指導する人材が不足している」、49.7%が「人材を育成しても辞めてしまう」、46.0%が「人材育成を行う時間がない」と回答しています(複数回答、上位5項目)。出典:2025年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省、2025年5月公表)p.23 図4。元データは厚生労働省「能力開発基本調査(事業所調査)」(2024年6月実施分)で、製造業事業所を対象にした政府統計です。
背景として、製造業の就業者数は2023年の1,055万人から2024年は1,046万人へとわずかに減少し、中小企業における製造業の従業員数過不足DIは2024年にマイナス18.2と、コロナ禍前の2019年と同水準の人手不足感に戻っています(出典:総務省「労働力調査」2025年1月、中小企業庁「中小企業景況調査」2024年12月)。採用で補おうにも、採れる母数自体が増えているわけではありません。
なぜ「育成しても辞める」のか ― 育成と定着は別の設計
育成に力を入れれば定着率が上がる、という単純な関係ではありません。育成は「できることを増やす」取り組みであり、定着は「ここで働き続けたいと思えるか」という、まったく別の設計です。
育成だけに投資し、定着の設計を後回しにすると、力をつけた人材ほど「ここでなくても通用する」と気づく時期が早まります。育成した相手が辞めてしまうのは、育成の失敗ではなく、定着という別の設計が置かれていないことの結果として起きています。
辞める会社・辞めない会社の設計
| 観点 | 辞める設計になりがちな会社 | 辞めない設計をしている会社 |
| 育成方針 | 入社初年度から即戦力を求める | 一定期間は「育つ前提」を許容する期間を明確に区切る |
| 評価の軸 | 離職防止そのものを目標に置く | 働き続けた先の成長機会を具体的に示す |
| 仕事の任せ方 | 指示の実行役として固定する | 早期から裁量のある役割・新事業を任せる余地をつくる |
| 現場のコミュニケーション | 業務指示が中心 | 定期的な対話の場を仕組みとして持つ |
よくある質問
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定着率を上げるには、まず何から着手すべきですか。
育成計画より先に、「入社から何年目に、どこまでの自立を求めるか」という期間の区切りを言語化することから着手する会社が多く見られます。期間が曖昧なまま即戦力を求める設計が、離職の引き金になりやすいためです。
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離職ゼロを掲げることは現実的ですか。
離職ゼロ自体を目標に掲げるより、「育った人に次の役割を用意できているか」を点検する方が実践的です。編集部が保有する取材アーカイブでも、離職ゼロは結果として語られており、それ自体を目的にした会社は見られませんでした。