この記事の結論
製品スペックは、比較の材料にはなっても、選ばれる理由にはなりません。新規の買い手が最初に持っているのは仕様条件ではなく、現象、損失、作業負担、リスクです。必要なのは、どの課題に向き、なぜその原因が起き、他にどんな選択肢があり、どの条件では向かないのかを、根拠とともに示すことです。その材料は、すでに営業と技術の手元にあります。
Webサイトをリニューアルした。製品情報を整理し、カタログPDFも最新版に差し替えた。仕様表もCADデータもダウンロードできる。
それでも、これまで接点のなかった企業からの相談は増えない。
技術力があり、納入実績もあり、必要な情報も公開している。にもかかわらず、新規の顧客からは選ばれない。なぜか。
原因をスペックの量に求めると、たいてい行き止まりになります。
製品ページが答えているのは「この製品は何か」という問いです。一方、まだ製品を知らない買い手が知りたいのは「自社の課題に、この製品が適しているか」です。この二つの間にある情報が欠けていると、スペックは比較される前に、候補として認識されません。
つまり、負けているのは比較ではなく、比較の手前です。
選ばれる理由とは、買い手が自社の課題と自社製品の適合を自分で判断できるようにするための情報です。性能の数字そのものではありません。
昨年、ある産業機器メーカーの社長と話していて、こう言われたことがあります。「うちのサイト、去年きれいに作り直したんですよ。カタログもPDFで全部載せた。それなのに、新規の問い合わせはむしろ減ってしまった」。
減った理由を、サイトのつくりだけに帰することはできません。市場の状況もあれば、季節の波もあります。原因を一つに決めつけるのは、この種の話でいちばんやってはいけないことです。
ただ、その場で製品ページを一緒に開いてみて、気になったことがありました。型番、性能、寸法、材質、対応範囲。必要な情報は揃っています。足りないものが見当たらない。だから余計に、社長は納得がいかない様子でした。
そのページのどこにも、その製品を使う人が最初に困っている状態が書かれていなかった。
カタログは、製品を知っている人のためにできている
製品カタログは、仕様を正確に伝えるためのものです。
- 処理能力
- 寸法と重量
- 材質
- 使用可能な温度や圧力
- 消費電力
- 対応規格
- オプション
こうした情報は、製品を比較し、設計し、購入を判断する段階では欠かせません。
しかし、カタログが役に立つのは、買い手がすでに製品カテゴリーを知り、何を比較すべきかを理解している場合に限られます。
新しい課題に直面した買い手は、最初から製品名や方式名を知っているとは限りません。
「清掃のために設備を止める時間を減らしたい」
「不良の原因が設備なのか、材料なのか判断できない」
「熟練者がいなくても、同じ品質を維持したい」
「既存設備を大きく変更せずに改善したい」
買い手が最初に持っているのは、仕様条件ではありません。現象、損失、作業負担、リスク。
この段階で必要なのは、仕様表ではなく問診です。何が原因として考えられ、どのような解決方法があり、どの条件なら自社製品が適しているのか。医師が検査値の一覧を渡す前にやっていることを、製品情報でもやる必要があります。
スペックは比較材料であって、選ぶ理由ではない
同じ製品カテゴリーであれば、Webサイトに並ぶ項目は似てきます。性能、価格、納期、対応範囲。比較表をつくることはできます。
しかし、買い手が本当に知りたいのは数字の大小だけではありません。
- 自社と似た条件で使えるのか
- どのような課題に向いているのか
- 他の方式ではなく、この方式を選ぶ理由は何か
- 導入時に設備変更や停止がどの程度必要か
- 導入後の保守や運用を続けられるか
- 期待どおりの結果が出ない条件は何か
こうした判断材料がなければ、優れたスペックが掲載されていても、「自社に適した選択肢だ」とは認識されにくくなります。
スペックは製品の能力を説明します。しかし、顧客がその製品を選ぶべき状況までは説明してくれません。
名前を言えば正確に説明される。課題から探すと出てこない
同じ構図が、生成AIの回答の中でも観測できます。
当社が実施している定点観測の一例です。ある産業設備分野の技術サービスについて、サービス名を含めて生成AIに尋ねたところ、ChatGPTとGeminiは試行のすべてで当該サービスに言及し、技術的な特徴も正確に説明しました。Claudeも、応答が成立した試行では言及しています。