営業KPIで動かない組織は何が違うか──製造業の4つの順序

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この記事の結論

営業KPIが機能しない原因の多くは、指標の選び方ではなく順序にあります。どこへ向かうのかという方向が示されないまま数値だけが配られると、目標は「詰められる根拠」に変わります。方向を決め、それを数値へ翻訳し、数字で語れる共通言語を組織に置く。この順序を踏んだうえで、初めて指標選定が意味を持ちます。

営業目標は毎期きちんと配っている。会議でも進捗を確認している。それでも、現場の動き方が去年と変わらない。製造業の経営者と話していると、この種の手応えのなさに行き当たることが少なくありません。指標が足りないのだろうか、粒度が粗いのだろうか、と設定の巧拙に原因を探しにいきたくなります。

ただ、動かない理由が数値の設計そのものにあるとは限りません。数値を置く前の段階で、決めるべきことが決まっていないことのほうが多いように思います。

営業KPIとは何か──指標ではなく「方向の翻訳装置」

営業KPIとは、最終的に到達したい成果(KGI)へ向かう過程で、日々の行動が正しい方向を向いているかを確認するための中間指標です。受注額や売上高が「どこまで来たか」を示すのに対し、KPIは「いま何をすべきか」を示します。

ここで見落とされやすいのが、KPIが翻訳装置だという性質です。翻訳には原文が要ります。原文にあたるのは、会社がどこへ向かうのかという方向です。原文が存在しないまま翻訳だけを進めれば、出てくるのは前年比や予算からの逆算にすぎません。

営業KPIを設定しても組織が動かないのはなぜか

編集部が保有する取材アーカイブには、この点を正面から語った経営者の記録があります。精密プラスチック部品と生活用品を手がけるメーカーの社長は、経営者には5年後・10年後の姿を示す責任があるとしたうえで、方向を示さず目先の売上だけを求めても社員は夢を持てない、と述べています。同社は主力市場が30年近く縮小するなかで過去の事業にしがみつき、もっと早い段階で方向転換をすべきだったと振り返っています。

方向が示されていない組織で数値目標だけが先に立つと、何が起きるでしょうか。数値は達成すべき約束ではなく、未達のときに責任を問うための根拠になります。現場から見れば、なぜその数字なのかを説明されないまま結果だけを求められる状態です。行動が変わらないのは当然で、変える方向がそもそも共有されていないからです。

順序が逆になっている。営業KPIが機能しない組織の多くは、この一点に集約されます。

製造業の営業KPIを設計する4つの順序

(1)どの山に登るかを先に決める

先の経営者は、方向の決め方についてこう語っています。10年先を正確に当てる必要はない、富士山に登るのか、筑波山に登るのか、その方向だけでも決めなければ、必要な準備はできない、と。

示唆的なのは、精度を求めていないことです。10年後の市場規模を正しく予測できる経営者はいません。しかし富士山なら装備も日程も体力づくりも変わり、筑波山なら別の準備になります。方向が決まれば準備が決まり、準備が決まって初めて、何を測るべきかが決まります。

製造業の場合、この方向は「どの市場で、どういう関わり方で稼ぐ会社になるか」という形をとります。受託の比率をどうするのか、部品の供給者に留まるのか、設計工程まで引き受けるのか。ここが曖昧なまま訪問件数や見積件数を設定しても、その数字が何のための数字なのかを誰も説明できません。

(2)掲げた方向を数値目標と結ぶ

方向を示せば足りるかというと、そうではありません。国内で高いシェアを持つ舶用電機メーカーの事例は、その先を教えてくれます。同社では使命を掲げたものの、社内から「足元が見えない」という声が上がりました。そこで具体的な数値目標と結びつけたところ、初めて行動が変わったといいます。

方向だけでは日々の判断に落ちず、数値だけでは意味が伝わりません。両方が結ばれて初めて、目標は「詰める道具」から「向かう先を示す座標」に変わります。KPIの設計とは、この結び目をつくる作業だと言い換えてもよいと思います。

(3)数値で語れる共通言語を組織に置く

三つ目は、数値を扱う土壌の問題です。金属パイプ加工メーカーの若手経営者は、外部から事業を承継した際、設備投資でどれくらい効率が上がるかを定量的に説明できないことが多かったという課題感を持ち、投資回収や改善効果を数字で語る文化を徹底して浸透させました。

営業KPIも同じ土壌の上に立ちます。数字で語る習慣のない組織にKPIを持ち込むと、指標は報告のための作業として処理され、判断材料にはなりません。逆に、なぜこの数字なのかを互いに説明し合える組織であれば、指標は自然に議論の起点になります。KPIを導入しても定着しないと感じるとき、疑うべきは指標ではなく、その手前の言語かもしれません。

(4)指標を「取引先」ではなく「市場」に向ける

四つ目が、指標が何を向いているかです。先の精密部品メーカーの社長は、営業に対して、取引先だけでなく市場を見ることを繰り返し伝えています。販売店へ納入した時点で終わりではなく最終消費者に売れたかまで考える。部品事業でも購買部門との価格交渉に留めず、部品が組み込まれる完成品とその先の市場まで理解する。開発段階から関わることで量産時の工数を減らす提案までできれば、供給業者ではなく共につくる協業者になれる、という考え方です。

指標の向き先を変えるとは、こういうことです。訪問件数や見積提出数は自社の活動量を測る指標であり、取引先の内側までしか届きません。一方、開発段階で相談を受けた件数、顧客の完成品が最終市場でどう動いたかを把握できている取引先の数といった指標は、市場のほうを向いています。

導入先の意思決定が現場担当者・施設責任者・上位機関と多層的に分かれる業界を手がけるメーカーの例も、この向き先の話として読めます。同社は、感覚論ではなくリスク低減や業務負担の軽減といった定量的な説明に落とし込むことを営業の役割としています。相手の意思決定構造を理解して、そこで通用する言葉に翻訳する。営業活動をその翻訳の量と質で測るなら、指標は確かに市場を向きます。

動かないKPIと動くKPIは何が違うか

ここまでの4つの順序を、対比の形で整理します。

観点 動かないKPI 動くKPI
出発点 前年比・予算からの逆算 どの山に登るかという方向の提示
数値の位置づけ 到達すべき結果 方向を足元に翻訳した中間地点
見ている先 取引先への納入実績 納入先の、その先の市場
未達時の扱い 個人の努力不足として問う 前提の見立てを組織で修正する
経営の関与 数値の配分と進捗確認 方向の提示と、挑戦の失敗リスクの引き受け

左右を分けているのは指標の種類ではありません。同じ「新規商談件数」という指標でも、方向と結ばれていれば右側になり、結ばれていなければ左側になります。指標選定の巧拙が結果を分けるという前提を、いったん外してみる価値はあります。

数値目標が「詰める道具」にならないために

最後に、順序を踏んだうえでも残る論点があります。新しい方向に向かう指標は、既存の指標より外れやすいという点です。未知の市場を開拓する行動を測る指標が、初年度から計画どおりに埋まることはまずありません。

ここで経営が何を引き受けるかが、KPIの性格を決めます。先の精密部品メーカーでは、新市場への挑戦を営業に促す一方、売れ残った場合の対応策を経営側で用意しました。失敗したら自分が責任を取ると伝えてリスクを引き受けることで、営業が自信を持って挑戦できる環境を整えたといいます。

未達のリスクを現場が個人で背負う構造のままでは、営業は達成できる数字しか約束しません。結果として、KPIは現状維持を追認する装置になります。方向を示した経営者が、その方向に伴うリスクも同時に引き受ける。この対応関係があって初めて、指標は挑戦を後押しする道具になります。

もうひとつ、未達を学習に変える仕組みも欠かせません。電子機器・産業用機器の受託製造を手がけるメーカーでは、日々の業務終了後に振り返りを行い、成功要因を言語化して組織に循環させる文化が積み重ねの結果として築かれてきました。数値を確認する場が、責任追及の場か、見立てを修正する場か。同じ会議体でも、そこで交わされる言葉が指標の意味を決めています。

まとめ

  • 営業KPIが機能しない原因は、指標の選び方より順序にあります。方向を示さずに数値だけを配ると、目標は詰める根拠に変わります。
  • 方向は正確である必要はありません。どの山に登るかが決まれば、必要な準備が決まり、測るべきものが決まります。
  • 方向は数値目標と結ばれて初めて足元に落ちます。同時に、数字で語れる共通言語が組織になければ指標は定着しません。
  • 指標の向き先を取引先から市場へ移すと、営業の行動そのものが変わります。
  • 新しい方向に伴う未達リスクを経営が引き受けなければ、営業は達成できる数字しか約束しません。

営業KPIはいくつくらい設定すべきですか

A:数の目安より、一つひとつが方向と結ばれているかを先に確認することをお勧めします。指標が多すぎて機能しない組織の多くは、方向が定まらないまま「測れるもの」を網羅的に並べた結果としてそうなっています。方向が明確であれば、それを確認するために必要な指標は自然に絞られます。まず方向を一文で書き出し、その進捗を確認するうえで欠かせない指標だけを残す順序が現実的です。

営業が属人化している状態でも、営業KPIは機能しますか

A:部分的には機能しますが、限界があります。個人の経験と勘に依存した営業活動は、そもそも何が成果につながったのかを組織で説明できません。説明できない活動は測っても改善につながらないため、指標が報告作業に留まりがちです。属人化の解消とKPIの設計は、どちらかを先に片づける話ではなく、同時に進める課題として扱うほうが実態に合います。

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