この記事の結論
生成AI時代に重要なのは、「検索で見つけてもらうこと」ではなく、「検索される前から思い出される会社になること」です。製造業のBtoB購買では、候補企業は検索前の接点や生成AIの回答などを通じて形成される傾向があり、一次情報を継続的に発信し、人にも生成AIにも引用・想起される存在になることが、これからの情報発信の重要な考え方です。
生成AIの普及で、検索は「考えるための出発点」から「結論を確認する答え合わせの場」へと役割を変えつつあります。多くの判断は、検索する前にすでに始まっています。だからこそ製造業の経営者が問うべきは「どう見つけてもらうか」ではなく「どの会社として思い出されるか」です。一貫した立場と一次情報を持ち、生成AIにも人にも引用される存在になること——それがLLMO(生成AI検索最適化)の本質です。
「検索が使えなくなった」という誤解
前回は、検索からの引き合いが減っているという現象そのものよりも、「検索を起点に新規顧客とつながる」という前提のほうが揺らいでいることを整理しました。
この話をすると、経営者の方からよく返ってくるのが、次のような反応です。「やはり、検索(SEO)はもう期待できないということですね」「自社サイトへの投資は縮小すべきでしょうか」。
ですが、ここで話を単純化すると、再び的を外した打ち手に向かうことになります。生成AIが登場したからといって、検索という行為が急に無価値になったわけではありません。変わったのは、検索が「何のために使われるか」——その役割です。
生成AIで「検索」はどう変わったのか
生成AIが日常に入り込んだことで、人の検索のしかたは確かに変わりました。検索結果を一つずつ開かなくなり、まず要点だけを先に把握し、比較検討の初期段階が以前よりずっと短くなっています。
ただし、この変化を「検索が不要になった」と捉えるのは正確ではありません。検索は消えたのではなく、役割が移ったのです。
かつて検索は「思考の起点」だった
これまでの新規顧客との出会いにおいて、検索は考えるための出発点でした。課題を感じたら検索し、複数の記事を読み比べ、自分なりに整理して検討を深める。その過程で、相手企業の考え方や姿勢に触れ、「この会社は信頼できそうだ」という印象が静かに形づくられていきました。
つまり検索は、情報を集めることと、相手を見極めることが、同時に進む場だったのです。
いま検索は「答え合わせの場」になった
一方、生成AIが一般化した現在、多くの人は検索の前に「答えの要約」に触れます。そこで得られるのは、それらしい結論、無難な整理、平均的な選択肢です。
その上で検索が使われるとすれば、それは「裏取り」や「確認」のため。検索は、思考を深める場から、結論を確かめる場へと役割を変えつつあります。
この変化は、実際の市場データにも表れています。米調査会社Gartnerは、生成AIの普及により2026年までに従来型検索の利用が25%減少すると予測しましたが、実際にAI検索の普及に伴う行動変化が各所で報告され始めています。
(出典:Gartner「Predicts 2024: How GenAI Will Reshape Tech Marketing」)
Pew Research Centerの2025年調査では、AI Overviewsが表示された検索でのクリック率は8%にとどまり、表示されない場合の15%と比べて約半分に低下しています。検索画面上で情報収集が完結する「ゼロクリック検索」は、AI Overviewsの普及とともに加速しています。
(出典:Pew Research Center、2025年7月)
| 観点 | 検索が「思考の起点」だった時代 | 検索が「確認の場」になった現在 |
| 検索の役割 | 課題を感じて最初に開く、検討の出発点 | 結論をだいたい掴んだ後の、答え合わせ・裏取り |
| 情報との出会い方 | 複数の記事を読み比べ、考えを深める | 要約で要点を把握し、必要なら一次情報を確認する |
| 信頼が生まれる場所 | 検索結果を読み込む過程で形成される | 検索の前(業界紙・展示会・紹介・AIの回答)で形成される |
| 差別化の源泉 | 情報の網羅性・整理の巧みさ | 「誰が、どんな立場で語っているか」という一貫性 |
| 経営の打ち手 | 見つけてもらう(SEO・コンテンツ量) | 思い出される・引用される(一次情報 × 一貫した発信) |
製造業の経営判断は、検索の外で始まっている
ここからが、経営にとって本質的な論点です。多くのBtoBの意思決定は、検索画面の外で、すでに始まっています。
Bain & CompanyとGoogleの共同調査では、多くのBtoBの買い手が正式な比較検討を始める前から、すでに候補となる企業群——同社はこれを「デイワン・リスト(day one list)」と呼びます——を持っていることが示されています。つまり、BtoB購買では、比較検討が始まる前の段階で想起されるブランドになることが重要であるというわけです。
(出典:Saber Sherrard, Rishi Dave, Mollie Parker MacGregor, "What B2Bs Need to Know About Their Buyers", Harvard Business Review, 2022. Bain & Company/Google共同調査)
製造業に引きつければ、こういうことです。発注先の候補は、課題が明確になる前——展示会で交わした言葉、業界紙で読んだ記事、取引先や同業の経営者から聞いた評判、そして生成AIが返した回答——こうした接点の積み重ねの中で、すでに絞り込まれている。最後の「確認」として検索やサイト閲覧が使われる頃には、勝負の大勢は決しているのです。
だとすれば、問われるのは「どこで出会うか」ではありません。どんな文脈で知られ、どんな考え方の会社として記憶されるか。接点の数ではなく、接点の質と意味が問われます。
「見つけてもらう」より「思い出される」——LLMOという設計
LLMO(生成AI検索最適化)とは、ChatGPTやGemini、Googleの「AIによる概要(AI Overviews)」といった生成AIが回答を組み立てる際に、自社の情報が引用・参照・推薦される状態を目指す最適化の考え方です。海外ではGEO(Generative Engine Optimization/生成AI最適化)や「生成AI SEO」とも呼ばれます。
これからの情報発信は、「検索に最適化する」ものから、検索に耐えられる存在になることへと比重が移ります。名前で検索されたときにどう見えるか。考え方が一貫しているか。誰の言葉として語られているか。検索は、見つけてもらう場であると同時に、評価される場になりつつあるのです。
引き合いが減る一方で、指名での問い合わせが増え、商談の質が上がっている製造業も存在します。彼らがしているのは、SEOを捨てることでも、情報発信を減らすことでもありません。共通するのは、次の三つです。
第一に、一次情報を持っていること
自社でなければ語れない技術的知見、現場で蓄積したデータ、具体的な導入事例。借り物ではない情報こそが、生成AIにも人にも「参照する価値がある」と認識されます。
第二に、情報を構造化していること
誰が、どんな立場で、何を根拠に語っているのか。出典や前提が明確な情報は、AIに引用されやすく、買い手にも信頼されやすくなります。
第三に、接点を「点」で終わらせていないこと
一度の展示会や問い合わせをその場限りにせず、関係として積み上げる。技術ニュースレターや展示会後のフォローなど、検索に依存しない直接の経路を意図的に育てることが、想起される確率を底上げします。
まとめ
- 生成AIの普及で起きたのは検索の終焉ではなく、検索の役割が「思考の起点」から「結論を確認する答え合わせの場」へと変わったことです。
- Bain & CompanyとGoogleの共同研究(2024年)は、BtoBの買い手は情報収集を始める時点で、すでに検討候補となる企業群("Day One List")を持っていることを示しています。判断は検索の前に始まっているのです。
- 問われるのは「どう見つけてもらうか」ではなく「どの会社として思い出されるか」。接点の数ではなく、その質と意味、そして語り手の一貫性が成果を左右します。
- 製造業の打ち手は、一次情報(技術知見・現場データ・導入事例)を持ち、出典を明確に構造化し、検索に依存しない接点を育てること。これが人にも生成AIにも認識される=LLMO(生成AI検索最適化/GEO・生成AI SEO)の本質です。
よくある質問
-
検索対策(SEO)は、もう不要になったのでしょうか?
A:いいえ。検索そのものがなくなったわけではなく、その役割が「探す」から「確かめる」へ移ったということです。名前で検索される(指名検索)とき、自社がどう見えるか——情報が一貫しているか、誰の言葉として語られているか——が、むしろこれまで以上に問われます。検索は、集客の入口であると同時に「評価の場」になりつつあります。
問題は、多くの企業がこの変化に気づかないまま、検索が思考の起点だった時代の設計——見つけてもらい、記事で理解を促し、問い合わせフォームへ誘導する——を続けている点にあります。前提が変わったのに設計だけが昔のままであれば、努力が成果に結びつかないのは当然です。
-
技術力で勝負してきた中小の製造業に、生成AIへの対応は本当に関係があるのでしょうか?
A:関係があります。生成AIは、体系的で出典の明確な専門情報を好んで引用する傾向があります。長年の現場で積み上げた技術的知見や導入事例は、まさに「引用される価値のある一次情報」です。発信していなければ専門性が十分に伝わらない可能性が高く、発信していれば、AIにも買い手にも「この分野はこの会社だ」と認識される——専門性の高い製造業こそ、むしろ有利な立場にあります。
これらは、特別な投資の話ではありません。「自社は誰に、何を語る会社なのか」という、経営の根幹に関わる問いです。生成AIによって起きているのは検索の終焉ではなく、「検索を起点にすれば検討が進む」という前提の終焉です。前提を捉え直し、自社の強み——積み上げてきた技術と信頼——を引用される形に設計し直せれば、対応の遅い競合に差をつける機会にもなり得ます。