この記事の結論
AI時代のSEOでは、検索トラフィックの減少は順位低下ではなく、 顧客の情報収集が生成AIの回答内で完結し始める構造変化です。 製造業が問い直すべきは「どう見つけてもらうか」ではなく、 「AI回答の中で自社の強みをどう残すか」です。本稿では、 Google AI Mode・ゼロクリック検索の実態と、製造業が持つべき 情報戦略の判断軸を整理します。
検索順位は落ちていないのに、クリックが減っている──BtoB製造業 の経営者からそうした声が増えています。その正体は、SEO施策の 失敗ではなく、Google AI ModeやAI Overviewsの普及により、顧客 が検索結果上で情報収集を完結させるようになった構造変化です。 本稿では、この変化が製造業の新規顧客獲得に何をもたらすかを 整理し、LLMO(生成AI検索最適化)への移行において経営者が持つ べき判断軸を示します。
AI時代のSEOで検索トラフィック減少が起きる理由
Google AI Modeとは、検索結果を単なるリンク一覧ではなく、生成AIとの対話によって情報を整理する検索体験です。また、AI Overviews(AIによる概要)とは、検索結果画面上でAIが複数の情報を要約し、ユーザーに回答を提示する機能です。
これまでのSEOは、検索結果で上位に表示され、顧客に自社サイトへ訪問してもらうことを前提にしていました。ところが、Google AI ModeやAI Overviewsが普及すると、顧客は検索結果画面上で概要を読み、比較し、次の行動を決めるようになります。
Googleは2025年5月、AI Overviewsを200以上の国・地域、40以上の言語に拡大したと発表しています。
(出典:Google公式ブログ「AI Overviews expand to over 200 countries and territories, more than 40 languages」)
また、2025年9月には、AI Modeが日本語を含む5言語に対応したと発表しました。
(出典:Google公式ブログ「AI Mode in Google Search expands to more languages」)
製造業にとって重要なのは、検索順位そのものではありません。設計担当者、生産技術担当者、購買担当者、経営者が技術課題を調べる過程で、どの会社を候補に残すかです。検索トラフィックが減ることは、単なるPV減少ではなく、新規顧客獲得の入口が見えにくくなることを意味します。
ゼロクリック検索が製造業の新規顧客獲得に与える影響
ゼロクリック検索とは、検索したユーザーが検索結果ページ上で目的を果たし、外部サイトをクリックせずに行動を終える検索行動です。
Pew Research Centerが米国成人900人を対象に行った2025年調査では、GoogleのAI要約が表示された検索では、通常の検索結果リンクをクリックした割合が8%でした。一方、AI要約が表示されなかった検索では15%でした。また、AI要約内の出典リンクがクリックされた割合は1%にとどまっています。
(出典:Pew Research Center「Google users are less likely to click on links when an AI summary appears in the results」)
この調査は米国ユーザーを対象としたものであり、日本の製造業の購買行動にそのまま当てはめることはできません。ただし、検索結果画面で顧客の情報収集が完結しやすくなる傾向は、BtoB製造業の情報発信にも無関係ではありません。
たとえば、顧客が「アルミ 切削 バリ 原因」「食品工場 異物混入 対策」「熱交換器 スケール 除去」といった検索を行う場合、すぐに製品を買うのではなく、まず課題を理解しようとします。そこで自社の技術記事がAI回答の材料になっても、サイト訪問や問い合わせにつながらなければ、営業機会は可視化されません。サイト訪問という「目に見える成果」が減る中で、製造業はどのように対応すべきなのでしょうか。
このデータが示す通り、勝負どころは「検索で見つけてもらう」段階よりも前──買い手が候補を頭に思い描く、その時点に移っています。検索トラフィックが減少する時代においては、AI要約の中で自社が言及され、この「初日の候補リスト」に入ることがより重要になるのです。
従来のSEOからLLMO(生成AI検索最適化)へ
LLMO(生成AI検索最適化)とは、検索エンジンや生成AIが回答を作る際に、自社の情報が正しく理解され、引用・参照される状態を目指す取り組みです。本稿では、対外表記としてLLMOを主軸にしつつ、近い概念としてGEO(Generative Engine Optimization)と生成AI SEOも併記します。
GEOは、2023年に公開された論文「GEO: Generative Engine Optimization」で提唱された概念です。同論文では、生成AI型の検索エンジンが複数の情報源を要約して回答する環境において、コンテンツ提供者が自社情報をどう扱われるかを制御しにくくなる課題が指摘されています。
(出典:arXiv「GEO: Generative Engine Optimization」)
従来のSEOが不要になるわけではありません。むしろ、検索されるための基盤として、正確なページ構造、明確な見出し、専門性のある本文、信頼できる出典は引き続き重要です。ただし、目的は「クリックを集めること」だけではなくなります。AI回答の中で、自社が信頼できる情報源として扱われることも、経営上の成果になります。
| 観点 | 従来のSEO | AI時代のLLMO(生成AI検索最適化) |
| 主な目的 | 検索順位を上げ、サイト流入を増やす | AI回答内で正確に引用・参照され、候補に残る |
| 成果指標 | PV、クリック数、検索順位 | 引用状況、ブランド想起、問い合わせの質 |
| コンテンツ設計 | キーワードごとに記事を作る | 課題・根拠・比較・判断軸を明確にする |
| 情報の扱い | できるだけ広く公開する | 公開する情報と守る情報を分ける |
| 経営上の意味 | 集客施策 | 情報資産の設計と管理 |
従来のSEOが直ちに不要になるわけではありません。ただし、検索トラフィックだけに依存する設計は見直す必要があります。これからは、SEO、LLMO、展示会、メルマガ、技術セミナー、既存顧客からの紹介を組み合わせ、顧客接点を複線化する判断が求められます。
製造業経営者が持つべき情報資産の判断軸
製造業の情報発信では、「何を公開し、何を守るか」の判断が重要です。技術力の源泉まで無防備に公開すれば、競合に学習されるリスクがあります。一方で、情報を出さなければ、顧客にもAIにも見つけてもらえません。
経営者が見るべき判断軸は、次の4つです。
- 第一に、課題を定義する情報は公開します。
顧客が自社の課題を言語化できるよう、原因、背景、失敗例、選定時の注意点を整理します。 - 第二に、比較に使われる情報は根拠付きで公開します。
用途別の向き不向き、規格、対応範囲、導入条件などは、AIにも顧客にも引用されやすい情報です。 - 第三に、競争力の核心にあたる情報は、問い合わせ後や商談内で提供します。
個別設計、原価構造、独自ノウハウ、詳細な工程条件は、公開範囲を慎重に決めるべきです。 - 第四に、誰が語っているかを明確にします。
技術者、経営者、監修者、導入企業、対応実績を明示することで、情報の信頼性が高まります。生成AIが参照する時代には、「どの会社が何に詳しいのか」をWeb上で明確にしておくことが、営業活動の前提になります。
検索トラフィック減少を前提にした経営判断
検索トラフィック減少は、単にマーケティング担当者が対処すべき現象ではありません。製造業にとっては、新規顧客獲得、技術継承、採用、事業承継にも関わる情報資産の問題です。
経営者がまず決めるべきことは、検索流入を元に戻す方法ではありません。自社の知見をどの経路で顧客に届けるかです。
検索で見つけてもらう。AI回答で候補に残る。展示会で名刺交換した相手に継続的に届ける。既存顧客に紹介してもらう。技術資料やメルマガで検討を深めてもらう。これらを分断せず、ひとつの情報戦略として設計する必要があります。
AI時代のSEOは、検索順位を競う施策から、顧客の判断に残るための経営判断へ移りつつあります。検索トラフィックが減る時代ほど、どの情報を開き、どの情報を守り、どの顧客接点を自社で持つかが問われます。
まとめ
- AI時代のSEOにおける検索トラフィック減少は、順位低下ではなく検索体験の構造変化です。
- Google AI ModeやAI Overviewsにより、顧客はサイト訪問前に一定の判断を下すようになります。
- 製造業は、技術情報を「公開する情報」と「守る情報」に分けて設計する必要があります。
- LLMO(生成AI検索最適化)は、AI回答内で正しく引用・参照されるための情報資産づくりです。
- 検索依存から脱し、展示会、メルマガ、技術資料、紹介など複数の顧客接点を持つことが重要です。
よくある質問
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なぜ検索順位が落ちていないのに、クリックが減るのですか?
A:顧客が検索結果上のAI要約だけで一定の答えを得てしまい、従来のように各社のページを開いて比較する機会が減るためです。これは順位の問題ではなく、顧客接点の場所が変わる問題です。
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製造業のような専門性の高いBtoB事業でも、影響はあるのですか?
A:あります。コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーは2025年9月の調査で、BtoB購買において 85%の買い手が、検索を始める前から想定していた「初日(day one)の候補リスト」の中から発注先を選んでいる と報告しています。さらに同社は、一部のBtoBソフトウェア領域で、AI要約導入以降にクリック率が最大30%下落したとしています。
(出典:Bain & Company「Losing Control: How Zero-Click Search Affects B2B Marketers」)