この記事の結論
製造業のDXは、業務効率化(守りのDX)では一定の成果が出ている一方、製品・サービス・ビジネスモデルを変革して稼ぐ力を高める段階(攻めのDX)では、着手はしても成果を出せていない企業が多い——2025年版ものづくり白書はそう指摘します。両者を分けるのは、経営層自身が関与するかどうかです。
製造業のDXは「効率化」で成果、「稼ぐ力」で停滞している
製造業におけるDXとは、デジタル技術で業務を効率化するだけでなく、製品・サービス・ビジネスモデルそのものを変革し、稼ぐ力を高める取り組みを指します。
経済産業省ほか「2025年版ものづくり白書」(2025年5月公表、通算25回目)は、この「効率化」と「変革」のあいだにある段差を明確に描いています。
(出典:経済産業省ほか「2025年版ものづくり白書」(2025年5月公表、通算25回目))
同白書によれば、個社単位のデジタル化・効率化はすでに一定の成果を上げています。一方で、稼ぐ力の向上につながる製品・サービス・ビジネスモデルの変革といった、より高度で広範な領域では、多くの企業が着手はしているものの、その成果をうまく創出できていない、と指摘しています。
つまり、製造業のDXは「着手した/していない」の段階を越え、「効率化はできたが、稼ぐ力にはつながっていない」という次の谷に差しかかっているといえます。そして同白書は、この谷を越えて成果を生むためには、経営層のコミットメントが重要だと明言しています。ここに、守りのDXと攻めのDXを分ける経営判断の分岐点があります。
中小企業全体で見ても、「着手」と「変革」の間に段差がある
同じ構図は、業種を問わない中小企業全体のデータからも読み取れます。
中小企業庁「2025年版中小企業白書」は、DXの取組状況を4つの段階で整理しています。
- 段階1:紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態
- 段階2:アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態
- 段階3:デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
- 段階4:デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態
(出典:中小企業庁「2025年版中小企業白書」第1部第1章第5節 デジタル化・DX)
同白書によれば、「段階1」(紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態)と回答した企業の割合は、2024年調査で12.5%まで減少しました(第1-1-41図)。デジタルツールの利用そのものは、着実に広がっているといえます。一方で、最終段階である「段階4」——ビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態の企業は、依然としてごく一部にとどまります。
なお白書は、2023年と2024年の調査は別々のサンプルであり母集団が異なるため、年次の回答割合を単純に比較することはできないと注記しています。その前提を踏まえたうえでも、段階4の企業割合は増加しておらず、数値上はむしろ減少しています。着手(段階1からの脱却)は広がる一方で、変革(段階4)へは進めていない——業種を問わない中小企業全体でも、この段差が見て取れます。
※この数値は製造業に限らない中小企業全体(全業種)を対象とした調査結果です。
いずれにせよ、製造業に固有のデータ(ものづくり白書)でも、業種横断のデータ(中小企業白書)でも、「デジタルツールの導入は進んだが、稼ぐ力を生む変革にはまだ届いていない」という同じ形が見えてきます。
なぜ「攻めのDX」で止まるのか
中小企業白書は、DXに向けた取組を進めるうえでの問題点として、いずれの取組段階でも「費用の負担が大きい」「DXを推進する人材が足りない」という回答が多いと報告しています。費用と人材という二重のボトルネックが、着手のその先へ進む足かせになっている構図です。
ただし、費用と人材だけが理由ではありません。デジタルツールの導入は現場主導でも進められますが、製品・サービス・ビジネスモデルの変革は、投資対象と成果指標そのものを組み替える経営判断を伴います。ものづくり白書が「成果創出には経営層のコミットメントが重要」と述べているのは、この点を指しています。攻めのDXは、経営者自身が関与しない限り前に進みにくいのです。
背景には、製造業を取り巻く構造変化もあります。同白書によれば、製造業の就業者数は2024年に1,046万人となり、2023年の1,055万人から減少しました。製造業はGDPの約2割、国内のCO2排出量の36%を占める基幹産業でありながら、担い手は減り続けています。人手が減るなかで競争力を保つには、効率化にとどまらず、限られた人員で新たな価値を生む方向へDXを引き上げる必要が高まっています。
守りのDXと攻めのDXの違い
守りのDXと攻めのDXは、何にどう投資し、何を成果と見なすかがまったく異なります。抽象的な対比ではなく、判断に使える具体的な軸で整理すると次のようになります。
| 観点 | 守りのDX | 攻めのDX |
| 目的 | 業務効率化・コスト削減 | 新たな付加価値創出・稼ぐ力向上 |
| 投資対象 | 生産ライン・基幹システム | 顧客接点・情報発信・新規事業 |
| 成果指標 | 工数削減・不良率低下 | 新規顧客獲得・売上構成の変化 |
| 経営者の関与 | 現場主導でも進む | 経営層のコミットメントが不可欠 |
守りのDXは現場主導でも進められるため、着手のハードルが低いという特徴があります。一方の攻めのDXは、投資対象を顧客接点や新規事業に広げ、成果指標そのものを工数からリードタイムや新規顧客獲得数へ組み替える必要があるため、経営層自身の関与なしには進みません。効率化で止まる企業と、稼ぐ力の変革まで進む企業を分けるのは、この関与の有無だといえます。
経営者が最初に問うべきこと
谷を越えるかどうかは、手法の選択以前に、経営者自身がどこに投資対象と成果指標を置くかという判断にかかっています。まず自社の現状を、上記の比較表に照らして棚卸しすることが出発点になります。
- 投資は生産ライン・基幹システムに偏っていないか
- 成果指標は工数削減や不良率低下だけで語られていないか
- 顧客接点や新規事業への投資判断に、経営層自身が関与しているか
この3つの問いに率直に向き合うことが、守りのDXから攻めのDXへ踏み出す最初の一歩になります。
まとめ
- 製造業のDXは、効率化(守り)では成果が出ている一方、稼ぐ力を生むビジネスモデル変革(攻め)では成果を出せていない企業が多い(2025年版ものづくり白書)
- 業種を問わない中小企業全体のデータでも、デジタルツールの導入は広がる一方、ビジネスモデル変革の段階に到達した企業は少数という同じ形が見える(2025年版中小企業白書)
- 障壁は「費用負担」と「人材不足」の二重のボトルネック
- 守りのDXと攻めのDXは、投資対象・成果指標・経営者の関与のいずれも異なる
- 効率化で止まる企業と変革まで進む企業を分けるのは、経営層自身が投資対象と成果指標を組み替える判断をできるかどうかにかかっている
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製造業のDXは何から始めればいいですか?
A:生産ラインや基幹システムへの投資からいきなり広げるのではなく、まず自社が「守りのDX(効率化)」にとどまっているか「攻めのDX(稼ぐ力の変革)」に踏み出せているかを、目的・投資対象・成果指標の3点で棚卸しすることから始めます。着手そのものより、成果指標をどこに置くかの見直しが出発点になります。
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効率化のDXはできているのに、なぜ成果につながらないのですか?
A:2025年版ものづくり白書は、個社単位の効率化には一定の成果がある一方、稼ぐ力を生むビジネスモデルの変革では成果創出が限定的だと指摘しています。効率化と変革は地続きではなく、投資対象と成果指標の組み替え、そして経営層自身の関与という別の条件を必要とするためです。