製造業の事業承継は「誰に」より「何を残すか」で決まる

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この記事の結論

製造業の事業承継は、後継者が決まった時点では終わりません。承継を経た経営者が語るのは「何を残し、何を捨てたか」です。公的な分類は「誰に渡すか」で分かれますが、現場で成否を分けていたのは「どう渡したか」でした。最も引き継ぎにくいのは、言葉になっていない技術と判断の基準です。承継の入り口を4つに分け、何が引き継がれ、何が断絶したのかを比較します。

製造業の事業承継とは、何を引き継ぐことか

事業承継とは、経営者が交代することそのものではなく、人(経営)・資産・知的資産という3つの経営資源を、次の代へ引き渡していく取り組みです。中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版)は、後継者に承継すべき経営資源をこの3要素に大別しています。

出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(2022年3月改訂)

※移行期間に関する記述の原典は、帝国データバンク「事業承継に関する企業の意識調査」(2021年8月・有効回答1万1,170社・全業種)

ここで見落とされやすいのが、株式の承継の位置づけです。同ガイドラインも、株式を渡すことは重要ではあるものの、それ自体は資産承継の一部分でしかないという整理を示しています。

そして3つ目の知的資産について。同ガイドラインは知的資産を、決算書には表れない無形の経営資源を指す言葉として定義しています。人材や技術、技能、知的財産、組織力、経営理念、顧客との関係などがこれにあたります。そのうえで、こうした無形の資源こそが会社の強みの源泉であり、次の世代に渡せなければ競争力を失いかねない、と警鐘を鳴らしています。

つまり、後継者を決め、株式を移し、代表印を渡した時点で終わるのは手続きです。事業が続くかどうかを左右するのは、目に見えないほうの資産です。

なぜ後継者が決まっても、事業承継は終わらないのか

事業承継ガイドラインは、後継者を決めてから承継が完了するまでの移行期間(後継者の育成期間を含む)について、移行期間が3年以上に及ぶ企業が半数を超え、10年以上かかる例も一定数あると記しています。原典は帝国データバンクが2021年8月に実施した「事業承継に関する企業の意識調査」で、有効回答は1万1,170社。製造業に限定した調査ではなく、全業種の企業を対象とした数値です。

半数以上が3年以上。この期間の長さが意味するのは、「誰に継がせるか」が決まった後にこそ、長い実務が待っているということです。

経営者が実際に向き合う時間の大半は、後継者選びではありません。何を渡し、どう渡すかの作業です。

製造業の事業承継にはどのような型があるか

公的な分類は「誰に渡すか」で分かれる

事業承継ガイドラインは、承継を親族内承継・従業員承継・社外への引継ぎ(M&A)の3類型に区分しています。いずれも「誰に渡すか」を基準にした分類です。

2025年版中小企業白書によれば、中小企業実態基本調査をもとに事業承継の意向を企業形態別に見たところ、法人企業の約3割が「親族内承継を考えている」と回答しています。こちらも全業種の中小企業を対象とした数値です。

出典:中小企業庁「2025年版中小企業白書」第1部第1章第9節 事業承継

※事業承継の意向に関する数値の原典は、中小企業庁「中小企業実態基本調査」

ただし、この分類だけでは見えないものがあります。編集部が保有する取材アーカイブに残る製造業の経営者の言葉が示していたのは、「誰に渡したか」ではなく「どう渡したか」の違いでした。

アーカイブに残る言葉が示すのは「どう渡したか」の違い

同じ親族内承継でも、10年並走した会社と、先代の病気で明日から交代した会社では、引き継がれたものがまったく違います。

以下は、編集部が保有する取材アーカイブ(過去に公開された取材記事を匿名化して蓄積したもの)に基づく整理です。

承継の入り口 引き継がれたもの 断絶しやすいもの
経営者が最初に着手したこと

外部から引き継ぐ

金属パイプ加工メーカーN社

設備・取引関係・技術 創業家を軸にした求心力、拠点間の一体感 心理的に分断していた2拠点を合併し、一つの会社へ再編した

先代と並走しながら渡す

精密部品メーカーLL社

半世紀分の加工データ
品質の再現性
現場感覚、職人との個人的な関係 前職がITエンジニアの後継者を現場に立たせ、覚悟が固まる時間を確保した

条件を整えてから渡す

精密金属加工メーカーMM社

技術
設備投資に踏み切る判断基準
渡す時期そのもの(先送りされやすい) 財務基盤を整えることを承継の前提条件に置いた

不測の事態で急ぎ渡す

プリント基板メーカーII社

顧客と製造技術 先代個人が持っていた専門知識 営業担当と二人三脚を組み、専門知識ゼロから学び直した

四つを並べると、失われるものが入り口ごとに違うことが分かります。外部承継では技術より人心が、並走型では逆に技術の勘所より現場との距離が、不測型では時間そのものが失われます。

そして、どの入り口でも共通して残りにくかったものがあります。言葉になっていない技術です。

最も引き継ぎにくいのは「言葉になっていない技術」

「先代のようにはなれない」から始まった経営

特殊形状ガラスを手がける建材・ガラス加工企業EE社の二代目経営者は、承継の出発点を「先代のようにはなれない」という自覚に置いていました。

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