『まともな会社』への回帰──NPCが問う製造業経営の本質

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展示会で名刺は集まるのに受注に至らない。海外展開を進めるべきか、まず国内を固めるべきか。判断の局面で、私たちは何を軸に決めているのか。太陽電池製造装置メーカー、株式会社エヌ・ピー・シー(連結従業員168名)の伊藤雅文社長は、市場崩壊と買収失敗の危機を経て、成長路線を捨て「まともな会社に戻す」という判断を下した。その判断軸を追う。

なぜ20名の町工場が「直販」を選んだのか──代理店を通さなかった判断の背景

直販とは、商社・代理店を介さず、メーカーが顧客企業と直接取引を行う販売手法である。BtoB製造業においては商社経由の間接販売が長らく主流であったが、エヌ・ピー・シーは創業初期から一貫して直販を選択し続けてきた。

1992年12月、伊藤社長は約2億円の負債を丸ごと引き継ぐ形でエヌ・ピー・シーを設立した。従業員20名、真空包装機を主力とする町工場からのスタートである。1994年9月に太陽電池製造用真空ラミネーターの製造・販売を開始し、1996年8月には米国に現地法人(現・NPC America Automation Inc.)を設立。装置メーカーとしては極めて異例の、直販による米国市場開拓に踏み出した。

直販を選んだ理由は2つある。伊藤社長はこう語る。

「商社にいたので、必要性を感じず直販でやった」

前職の商社時代の経験から、商社を介することへの必要性を感じなかった。そしてもう一つ、商社を挟むと顧客の現場から確かな情報が得られないという判断があった。顧客の生の声が装置仕様の改善に直結する製造装置ビジネスにおいて、この2つの理由は不可分だった。

20名規模の会社が、世界最大級の太陽電池メーカーと直接交渉する。当時の装置メーカーとしては極めて異例の選択だったが、これが奏功する。米国で実績を積み上げた後、ドイツのFIT政策(固定価格買取制度)導入に乗る形で欧州市場も切り拓いた。

ここで注目すべきは、この直販が単なる営業手法ではなく、「意思決定のスピードを組織構造で担保する」という経営判断だった点である。

項目 代理店経由の場合 直販の場合
顧客の要求変更への対応 商社・代理店経由で伝達(数日〜数週間) 営業技術者が直接受領(即日〜数日)
装置仕様のカスタマイズ 中間者による解釈の介在 顧客と技術者の直接対話
価格交渉の主体 商社の利益率が挟まる 自社の判断で決定
顧客との信頼構築 商社の関係性に依存 自社ブランドとして蓄積

現在も同社の海外売上はほぼ全てが直販である。米国NASDAQ上場のCdTe型薄膜系太陽電池メーカー・First Solar社との取引は約25年に及び、同社の稼働中の製造ライン全てにエヌ・ピー・シーの装置が納入されている。国内新規事業である産廃業界への展開でも直販を基本とし、この構造は30年以上変わっていない。

「肩で風を切っていた」買収の代償──成長期の判断ミスが教えた教訓

順風満帆に見えた事業は、2000年代後半に一転する。中国メーカーの大量参入によって太陽電池市場は過剰生産と価格崩壊に陥り、主要顧客が次々と破綻・撤退した。

2007年6月に東京証券取引所マザーズ市場への上場(現グロース市場)を果たした好調期、同社は業界2位のドイツ競合メーカーを買収した。案件はKPMGからの持ち込みで、当時の社長と経営企画担当の取締役を中心に検討が進んだ。当時の伊藤氏は太陽電池製造装置の営業を統括する事業部長兼取締役として、海外顧客を飛び回る日々だった。買収の検討チームには入っていなかったが、取締役の一員としてこの判断を見ていた。

「肩で風を切っていた」

後に伊藤社長が語るこの言葉は、自身一人を指すものではない。上場を果たし、市場から評価を得た経営陣全体が、成長ストーリーに引きずられ、自社の器を超えた判断を下していた。買収先の評価も、この状態では甘くなりがちだった。

「そんなのは今通用しません。やっぱり一歩踏み止まって、いろんな人が言うことをちゃんと聞いて、いろんなものを受け入れる」

市場崩壊と買収失敗が重なり、グループ全体が経営危機に陥った。社長に就任した伊藤氏が引き受けたのは、自身が意思決定の中心にいなかったこの失敗の後処理だった。各国拠点を自ら回り、解散・撤退の説明を行い、広げた事業を自らの手で畳んでいく。当時の心境を、伊藤社長はこう振り返る。

「逃げずにやらなければいけないことがある。辛い経験でしたが、ここで価値観が大きく変わりました」

何を閉じ、何を残したか──就任直後の「引き算」の経営

拠点閉鎖の判断は、明確な軸に基づいていた。

拠点 判断 判断の根拠
買収したドイツ競合企業 閉鎖・整理 買収の前提が崩れた
NPC Europe 閉鎖 欧州市場の縮小
NPC Korea 閉鎖 主要顧客の撤退(後に別会社として新設)
アジア各拠点 閉鎖・整理 主要顧客の破綻・撤退
NPC America Automation Inc. 存続 継続的な顧客関係と将来性
愛媛・松山工場 中核として強化 ものづくりの人材基盤

海外拠点をほぼ全て畳む中で、米国NPC America Automation Inc.だけを残した判断について、伊藤社長は「今のお客さん、アメリカは将来の継続性、必要性もあった」と語る。「事業として黒字か赤字か」だけでなく「顧客との関係性の将来価値」を判断軸に置いたわけだ。この判断は結果として、その後の同社の事業構造を規定する分岐点となった。現在の主要顧客であるFirst Solar社との25年に及ぶ取引関係も、この米国拠点存続の判断があってこそ維持されている。

拠点整理と並行して進んだ社内改革の中で、幹部クラスの半数以上が離職した。「昔はこうだった」に固執する層が去り、残ったメンバーが新しい組織文化の担い手となっていった。

「まともな会社」に戻すという判断──成長路線からの意思的な転換

危機の後、伊藤社長が繰り返し口にする言葉がある。「普通の会社にしたい」「まともな会社にしたい」。

この言葉は、単なる謙遜や反省の表明ではない。成長を追い求める経営から、持続可能性を優先する経営への意識的な転換を意味している。

具体的に着手した施策は、上場企業としては驚くほど基本的なものだった。

  • 退職金制度の新設(それまで未整備)
  • 定期賞与制度の導入(年俸制から月給制に変更し、定期昇給のルールも制度化)
  • 外部コンサルタントを入れた人事評価制度の再構築
  • ガバナンス体制の整備

伊藤社長はこう説明する。

「松山の人たちは、そういう安定を望むというのも感じました。東京だけの観点だと、ちょっとずれてしまうところがある」

主要拠点である愛媛県松山市の松山工場には、有期雇用を含め約170名が勤務している。連結社員の内訳は、開発・設計47名、製造・検査56名、管理・営業他65名(2025年8月末時点)と、約3分の2が技術職だ。真面目で協調性のある地場人材が同社の品質を支える中、その人材が「安心して働ける枠組み」を作ることが、経営者としての優先事項だったわけである。

上場企業として株主から成長を求められる立場でありながら、あえて短期的な成長率よりも組織が長期的に機能する土台を優先する。この判断は、買収失敗という具体的な代償を経験した後だからこそ、経営陣・従業員の間で共有可能な合意点になったと考えられる。

確証のない技術に10年賭ける理由──ペロブスカイトと水平リサイクルへの投資判断

現在、エヌ・ピー・シーが力を入れている2つの新領域がある。次世代太陽電池「ペロブスカイト」と、太陽光パネルのガラス分離・リサイクル技術だ。

いずれも市場が確立していない、投資回収の見通しが立ちにくい領域である。特に太陽光パネルリサイクルは、2014年から開発を継続してきた技術で、実に10年以上を要して大きな成果に至った。

同社独自の「ホットナイフ分離法🄬」は、約300℃に加熱したナイフでガラスとセルシートを分離する技術で、パネル1枚あたり60秒で処理できる。関連特許は5件取得済みで、同様の技術を持つ競合は存在しない。この技術で分離したガラスが、AGC株式会社およびセントラル硝子株式会社の評価により、水平リサイクル(同品質の製品への再生)可能と認められた。水平リサイクルを実現するのはガラスメーカーの役割であり、エヌ・ピー・シーはその前工程となる高精度な分離技術を担う。板ガラスメーカーによるガラスの有価買取も実現しており、リサイクルの経済的な循環が成立しつつある。

廃棄パネルのピークは2030年代半ばに到来し、排出量は最大50万トン/年(パネル換算約2940万枚)に達すると環境省が予測する。このマクロ背景のもと、同社は廃棄ピーク到来までにガラス分離装置200セットの販売を目標としている。

なぜ、確証のない領域に10年以上投資し続けることができたのか。伊藤社長の判断軸は明確だ。

「今のうちから技術を持つことが大切」

これには、「市場が見えるようになってから動いても、参入時期としては遅い」という判断である。太陽電池市場の黎明期に直販で参入した経験が、この判断を支えている。

同社は現在、事業ポートフォリオの意図的な再配分を進めている。過去3年間(FY2023〜FY2025)の連結売上29,279百万円のうち、太陽電池製造装置が75%を占め、First Solar社への依存度も高い。中期的な目標は、トップライン自体を拡大しながら、成長市場であるペロブスカイト太陽電池装置とリサイクル装置にリソースを集中投下し、結果としてFirst Solar社への比率を引き下げるというものだ。

事業 現状(FY23〜25) 中期目標
太陽電池製造装置(First Solar中心) 75% 40%
ペロブスカイト太陽電池装置 30%
太陽光パネルリサイクル装置 3% 20%
産廃自動化装置・その他 10%

First Solar社との取引を縮小するのではなく、成長市場での売上を積み上げた結果として比率が変わる。これは単なる新規事業の積み増しではなく、既存の強固な取引関係を維持しながら、次の柱を自力で育てるという判断だ。

さらに事業ポートフォリオは、産廃業界向け自動化装置、そして植物工場(レタス「はこひめ」ブランド)へと広がっている。植物工場はFY2022末からフル生産60t/年を継続。同社はIR資料の中で「一般消費者への知名度向上に資する事業であり、新卒学生の採用人数増加につながっている」と明確に位置付けている。

「機械ばかりでは地元に何をしている会社か伝わりにくい」という判断は、採用競争が激化する地方製造業にとって示唆に富む。

まとめ

  • 直販は営業手法ではなく組織判断:「必要性を感じない」「確かな情報が得られない」という2つの理由から選択した直販は、意思決定スピードを組織構造で担保する経営判断だった
  • 「肩で風を切る」のは個人ではなく組織全体で起きる:上場後の好調期に経営陣全体が成長ストーリーに引きずられた。その失敗を後任として引き受けた経験が、その後の判断軸を形成した
  • 拠点の残す・畳むは「顧客との将来関係性」で決めた:短期の黒字赤字ではなく、将来の関係価値で判断。First Solarとの25年取引関係もこの判断の延長線上にある
  • 「まともな会社に戻す」は退行ではなく意識的転換:退職金・賞与・評価制度など上場企業として基本的な仕組みを危機後に再構築した
  • 確証のない領域への長期投資は、参入タイミングの判断:トップラインを拡大しながら成長市場にリソースを集中投下し、結果として事業構造を変える計画を公式に掲げている

編集部の視点

伊藤社長が社長就任後に最初に向き合ったのは、自身が意思決定の中心にいなかった失敗の後処理だった。その経験から生まれた「まともな会社に戻す」という判断は、成長を諦めたのではなく、判断の軸を取り戻すことへの転換だ。私たち製造業経営者にとっても、いま「肩で風を切っている」領域はないか。市場や周囲の期待に引きずられ、自社の器を超えた判断を進めている場面はないか──伊藤社長の証言は、そう問いかけている。

取材・文:ものづくり経営フォーラム編集部

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