この記事の結論
自社を一言で表す言葉とは、社外への自己紹介であると同時に、社員が「うちは何をする会社か」を説明できる社内指標です。決め方に唯一の正解はありませんが、「受動的か能動的か」「重い言葉か口に出せる言葉か」「借り物か自分たちの言葉か」という3つの対立軸で検討すると、判断がぶれにくくなります。
自社を一言で表す言葉とは──社外への宣言であり、社内の指標である
自社を一言で表す言葉とは、単なるキャッチコピーではなく、どう見られたいかという社外への宣言であり、同時に社員が自社の存在意義を説明できるようにする社内指標です。取引先やパートナー、求職者に対する最初の自己紹介であると同時に、この一言が定まることで、あらゆる場面での自社の説明に一貫性が生まれます。
前回の記事(製造業のブランディングは『判断の一貫性』から生まれる)では、経営の意思を先に言語化する重要性を扱いました。今回は、その意思を実際に「一言」へと絞り込んでいく過程で、何が判断の分かれ目になるのかを見ていきます。
なぜ迷走するのか──唯一の正解がない領域だから
この一言を決める作業が難航しやすいのは、デザインの巧拙のように客観的な正解が存在しないためです。編集部が把握している、ある企業の推敲プロセスでは、最終的な言葉にたどり着くまでに、大きく3つの対立軸をめぐる議論があったことが分かっています。
判断の対立軸1:受動的か、能動的か
最初に浮かぶ案は「〇〇のパートナーでありたい」というような、協業を待つ受動的な姿勢の言葉であることが少なくありません。しかし議論を重ねる中で、「一緒にやりましょう」と待つ会社なのか、「これをやります」と自ら宣言する会社なのかという問いに直面します。
どちらが正解ということではありません。協業の機会を増やしたいのであれば受動的な表現が合いますし、独自性を打ち出したいのであれば能動的な表現が合います。事業の方向性によって、選ぶべき軸は変わります。
判断の対立軸2:重い言葉か、口に出せる言葉か
漢字が多く、硬く、重い表現は、一見すると格式や専門性を伝えられるように思えます。しかし、こうした言葉は往々にして、社員自身が日常会話の中で口にしにくいという弱点を抱えます。
原則として、子どもが聞いても意味が分かり、繰り返し口にできる言葉のほうが、社内に浸透しやすいとされています。自分の言葉として話せない表現は、相手にも響きにくいためです。「一般的で正しい言葉」より、「日常で実際に使える言葉」を選ぶという判断軸です。
判断の対立軸3:借り物の言葉か、自分たちの言葉か
流行しているから、それらしく聞こえるから、という理由で言葉を選ぶと、その言葉は「代替可能」なものになります。ある経営者は、「〇〇っぽい」「代替可能」と言われる状態が最もつらい、と語っています。目指すべきは、「あなたしかいない」「この会社にしかない」と言われる状態です。
比較表:3つの対立軸
| 観点 | 借り物・受動型の言葉 | 自分たちの言葉・能動型の言葉 |
| 姿勢 | 協業を待つ受動的な表現 | 自ら価値を宣言する能動的な表現 |
| 言葉の重さ | 漢字が多く硬い表現 | 子どもでも分かり、口に出せる表現 |
| 出どころ | 流行や業界の慣用表現 | 自社の実感に基づく独自の表現 |
| 相手の受け止め方 | 「代替可能」に見える | 「あなたしかいない」と言われる |
3つの軸のどちらを選ぶかは、事業の方向性によって変わります。重要なのは、意識せずに借り物の言葉を選んでしまわないことです。
では、実際にどのように言葉を絞り込み、到達点を見極めればよいのでしょうか。ここから先は、推敲の実務として整理します。