この記事の結論
展示会の成果は、名刺の枚数では測れません。名刺は連絡先情報であって、引き合いではないからです。接点を引き合いに変えるには、ブースで顧客の課題を記録し、課題ごとに渡す情報を展示会の前に用意し、継続接点を商談へ渡す中間工程を誰の仕事にするかを決めておく必要があります。展示会の成果は、終わってからではなく、始まる前に決まります。
展示会が終わると、来場者数と獲得名刺数が報告されます。目標を上回れば、ひとまず成功。前年を下回れば、ブースの位置、装飾、呼び込み、ノベルティが反省点として並びます。
しかし、経営者が本当に知りたいのはそこではないはずです。これまで接点のなかった企業から、何件の新しい相談や商談が生まれたか。投じた費用と時間が、将来の取引先との関係に変わったか。
展示会には、出展料やブース制作費だけでなく、営業・技術担当者の時間、出張費、事前準備、終了後の対応が投入されています。それでも、成果の説明が「名刺を何枚獲得したか」で止まってしまいます。個人的には、これは担当者の力不足ではなく、設計の欠落だと考えています。
展示会からの引き合い創出とは、来場者の課題を記録し、課題ごとの情報で継続接点をつくり、商談化までを追跡する一連の設計です。名刺の枚数を増やす活動ではありません。
名刺は連絡先情報であって、引き合いではない
名刺には、氏名、会社名、部署、役職、連絡先が載っています。しかし、その人がなぜブースに立ち寄ったのかは書かれていません。
- 現在、具体的な設備課題を抱えているのか
- 将来の更新に向けた情報収集なのか
- 自社製品と比較するために来たのか
- 商社、協業先、競合など、別の目的なのか
- 何に関心を持ち、何を懸念しているのか
これが分からなければ、名刺交換後に送れるのは、全員に同じお礼メールと製品案内だけです。受け取る側から見れば、自分が話した課題とは関係のない案内が届きます。その後に営業から電話が来ても、商談を始める理由がありません。
展示会で得た名刺が動かないのは、名刺管理ツールがないからとは限りません。名刺と一緒に、相手の課題と次に必要な情報を残していない。原因はむしろそちらにある気がしています。
接点と商談の間に、責任者がいない
展示会担当者は、来場者数と名刺獲得数で評価されます。営業担当者は、目の前の商談と受注を追います。その間にある「関心を継続接点へ変える仕事」を、どちらも自分の担当だとは考えていません。
この責任の空白があると、すぐに商談にならない名刺は営業の優先順位から外れ、展示会担当者の手元では一斉配信の対象になります。せっかく会話をした相手が、また名簿の一行に戻ります。
つまり、名刺が引き合いにつながらないのは、終了後の努力の問題ではありません。接点から商談までの中間工程を、誰の仕事として設計するかという経営課題です。
BtoB購買担当者が供給候補と実際に接触する時間は、購買プロセス全体のわずか17%にとどまるとGartnerは報告しています。商談の場に呼ばれる前段階で、すでに候補として認識されているかどうかが問われています。
出典:Gartner「5 Ways the Shift in B2B Buying Will Reconfigure B2B Selling」
展示会の成果を四つの段階に分ける
展示会後の関係は、次の四段階に分けて見る必要があります。
| 段階 | 状態 | 確認すべきこと |
| 接点 | 名刺を交換した | 誰と会ったか |
| 関心 | 課題や関心領域が分かった | 何を知りたかったか |
| 継続接点 | 関連情報を読み、再訪・登録した | 関係が展示会後も続いているか |
| 引き合い | 相談、診断、見積もり、商談に進んだ | 具体的な検討が始まったか |
名刺獲得数が示すのは、最初の「接点」だけです。
展示会当日は短距離走です。ブースの前の数分で決まります。しかし引き合いは長距離走で、走り出すのは展示会が終わってから。この二つを同じ指標で評価しようとすると、後半が誰の責任でもなくなります。
展示会で持ち帰るべきものは、名刺の束ではありません。相手が抱える課題と、次に渡すべき情報です。
以降は、来場者の分け方、展示会前に用意する情報、終了後二週間の運用例、経営者が見るべき指標を扱います。
全員を同じ「見込み客」として扱わない
展示会来場者の関心度と目的は同じではありません。少なくとも、次の四つに分けます。
| 区分 | 状態 | 次の対応 |
| 具体案件 | 課題、導入時期、対象設備が比較的明確 | 営業が速やかに個別対応します |
| 課題認識 | 困りごとはあるが、方法や時期は未定 | 課題に対応した解説や事例を届けます |
| 情報収集 | 将来に備えた調査段階 | 登録読者として継続的に情報を届けます |
| 対象外・別目的 | 協業、売り込み、競合調査など | 営業対象から分けて管理します |
具体案件だけを営業へ渡し、それ以外を放置すると、将来の候補を失います。一方、すべてを営業案件として追うと、営業担当者は可能性の低い相手への連絡に追われます。
重要なのは、商談化していない相手にも、その時点の関心に合った次の接点を用意することです。
これは、来場者一人ひとりに個別のメールや資料をつくるという意味ではありません。主要な課題を3〜5種類程度に分類し、課題別に再利用できる記事や事例を用意します。個別対応は、具体性が確認できた相手に絞ります。
ブースで記録すべきは、会話の中身である
名刺とともに、最低限これだけは残します。
- 関心を持った課題・用途
- 対象となる設備や工程
- 検討時期と、現在起きている損失
- 営業による個別対応の要否
長文は不要です。主要な顧客課題を3〜5種類程度に整理し、タグで選べるようにします。製品カテゴリーが同じでも、「品質安定」「停止時間の削減」「人手不足」では、次に必要な情報が異なるからです。