この記事の結論
製造業の後継者不在率は42.4%と8業種中最も低く、承継は進んでいます。しかし2024年の休廃業・解散は過去最多の6万9,019件、うち約半数は黒字での廃業でした。技術を残す手段としてのM&Aは選択肢の一つですが、2024年は悪質な買い手によるトラブルが表面化し、警戒感から件数が前年を下回りました。廃業もM&Aも、どちらが正しいという話ではありません。
第三者承継(M&A)とは──廃業との対比で考える
第三者承継(M&A)とは、後継者が社内にも親族にもいない企業が、社外の第三者へ経営権や事業を引き継ぐ手段です。内部昇格や同族承継が「社内で継ぐ」選択であるのに対し、M&Aは資本と経営権が外部に移る点が異なります。そして、この選択肢の対極にあるのが廃業、つまり会社を畳んで事業そのものを終えることです。
後継者がいないとき、選べる道は大きく分けて「誰かに継いでもらう」か「畳む」かの二つです。本記事では、この二択のうち後者に流れがちな現状と、前者としてのM&Aが持つ光と影を、データをもとに整理します。
事実:製造業の承継は進んでいるのに、廃業は過去最多
帝国データバンクが2025年11月21日に公表した調査(全国約27万社対象)によると、全国の後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下し、7年連続の改善となりました。業種別に見ると、製造業は42.4%で8業種の中で最も低く、承継が最も進んでいる業種です。企業規模別では大企業24.9%、中小企業51.2%、小規模企業57.3%と、規模が小さいほど後継者対策が遅れている構図も見えます。
一方で、同じ帝国データバンクの「全国企業 休廃業・解散動向調査 2024年」によれば、2024年の休廃業・解散は6万9,019件と前年より約1万件増え、過去最多を更新しました。製造業に限ると3,140件で、前年比4.2%の増加です。休廃業した企業の経営者の平均年齢は71.3歳で、これも過去最高でした。
さらに東京商工リサーチの別調査(「2024年 休廃業・解散企業 動向調査」)では、休廃業企業の赤字率は48.5%、つまり裏を返せば約半数(51.5%)は黒字の状態で会社を畳んでいます。まだ利益を出せる会社が、後継者不在という一点で市場から消えている──これが、承継率の改善という明るいニュースの裏で起きている現実です。
なお、休廃業・解散の件数は調査によって定義や対象が異なるため単純比較できません。本記事では件数は帝国データバンクに統一し、黒字率のみ東京商工リサーチのデータを別調査として引用しています。
事実:技術を残す選択肢としてのM&Aは、2024年に警戒感で減速した
帝国データバンクの同調査(全国・全業種、2025年速報値)によると、社長交代時の就任経緯は、内部昇格36.1%、同族承継32.3%、M&Aほか20.6%、外部招聘7.6%でした。内部昇格が同族承継を上回っており、「脱ファミリー化」が進んでいる兆しがあります。
ただし、時系列で見ると単純な右肩上がりではありません。同じく全国・全業種の2024年実績では、M&Aほかの比率は19.2%となり、2020年以来4年ぶりに前年を下回りました。帝国データバンクはこの減速の理由について、2024年に悪質な買い手企業によるトラブル──給与の遅配、税金の未納、経営者保証の解除や債務の引き受けに応じないといった事例──が相次いで表面化し、M&Aによる第三者への事業譲渡そのものへの警戒感が広がったためだと分析しています。
技術を残す手段としてM&Aが選ばれる場面は増えてきましたが、その裏で「継いでもらったはずが、約束が違った」というつまずきも実際に起きている、ということです。
考察:なぜ経営者はM&Aに踏み切れないのか
ここからは、データが示す事実ではなく、編集部の考察です。
M&Aへの抵抗感の背景には、いくつかの層があると考えられます。一つは「身売り」という感覚です。自分の代で外部資本の傘下に入ることを、経営の終わりのように感じてしまう心理は根強くあります。もう一つは、従業員や取引先への責任です。継いだ相手が変われば、雇用条件や取引条件がどう変わるか分からないという不安は、当然のものです。そして三つ目に、技術やノウハウが承継後にどう扱われるか分からない、散逸してしまうのではないかという懸念があります。
重要なのは、こうした警戒には正当な理由がある、という点です。前述のとおり、実際に悪質な買い手によるトラブルは起きています。M&Aへの慎重さは、単なる保守性ではなく、リスクを正しく見ている結果でもあります。
比較表:廃業とM&A、それぞれで何が残り、何が失われるか
| 観点 | 廃業 | M&Aで技術を残す |
| 技術・ノウハウ | 失われる(散逸することが多い) | 承継先で存続する可能性がある |
| 雇用 | 失われる | 買収先のもとで維持される可能性がある |
| 取引先との関係 | 終了する | 継続する可能性がある |
| 経営権・独立性 | 消滅と引き換えに区切りがつく | 外部資本の傘下に入る |
| 心理的な負担 | 「畳んだ」という区切りの重さ | 経営権を手放すことへの抵抗感 |
| 主なリスク | 新たなリスクは生じない | 悪質な買い手に当たるリスクがある |
何を優先するかで、この表の見え方は変わります。
判断軸:警戒すべき買い手をどう見分けるか
M&Aを選択肢として検討するなら、「良い買い手」と「そうでない買い手」を見分ける視点が要ります。国は中小企業のM&Aを支援する枠組みとして、中小M&Aガイドラインの整備や、M&A支援機関登録制度の運用を進めています。仲介業者やアドバイザーがこの登録制度に載っているかどうかは、最低限の確認材料になります。
また、事業承継・引継ぎ支援センターのような公的な相談窓口があり、令和6年度には第三者承継(M&A)を2,132件成約させています。焦って一社だけと話を進めるのではなく、こうした公的窓口も含めて比較検討できるかどうかも、判断軸の一つになります。
技術が後継者不在という一点で失われる重みは、判断の前提として動きません。
まとめ
- 製造業の後継者不在率は42.4%で8業種中最も低く、承継は着実に進んでいます。
- 一方で2024年の休廃業・解散は過去最多の6万9,019件(製造業3,140件)で、うち約半数は黒字での廃業でした。
- 技術を残す手段としてのM&Aは選択肢の一つですが、2024年は悪質な買い手によるトラブルの表面化で警戒感が広がり、件数は4年ぶりに前年を下回りました。
- M&Aには光(技術・雇用が残る可能性)と影(悪質な買い手のリスク)の両方があり、中小M&Aガイドラインなど公的な見極め手段を活用する視点が要ります。
- 廃業もM&Aも、どちらが正しいという話ではなく、経営者自身が納得して選ぶための判断材料が必要です。
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事業承継やM&Aの相談は、どのタイミングで、どこにすればよいのでしょうか?
A:まだ廃業もM&Aも決めていない段階からの相談が可能です。事業承継・引継ぎ支援センターは公的な相談窓口の一つで、令和6年度には2,132件の第三者承継を成立させています。早い段階で相談すれば、廃業とM&A、双方の選択肢をじっくり比較検討する時間を確保できます。
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M&Aで会社を譲渡すると、必ず技術やノウハウは残るのですか?
A:必ず残るとは言えません。M&Aは技術を残す「可能性がある」手段であり、保証ではありません。実際、帝国データバンクの分析では、2024年に悪質な買い手企業によるトラブル(給与遅配、経営者保証の未解除など)が表面化し、M&Aへの警戒感が広がったことで、就任経緯に占めるM&Aの比率が前年より下がりました。良い買い手を見極める視点──中小M&Aガイドラインの活用やM&A支援機関登録制度の確認など──が欠かせません。