この記事の結論
IoTとマシーンの技術を融合し、情報通信、ペイメント、ロボットなどの事業を展開するFIG株式会社。代表取締役社長の村井雄司氏が新規事業を考える際に重視するのは、未来の社会を想像することと、既存事業とのつながりを見極めることである。自らの手で新しいものを生み出す喜びを原点に、技術の進歩と社会の変化を捉えてきた村井氏。事業の選択からグループ経営、人材育成まで、その判断の背景にある考え方を聞いた。
「作ったものが喜ばれる」ことから始まった事業
「自分が作ったもので、お客さんに喜んでもらって、その上、報酬までいただける。これは自分の天職なのかなと思いました」
FIG株式会社の代表取締役社長、村井雄司氏は、自身の仕事の原点をそう振り返る。
村井氏が情報通信の世界に足を踏み入れたのは、40年以上前のことだ。コンピューターに関わる仕事を経験した後、親族が経営する無線関連の会社に移った。そこで顧客から依頼を受け、ソフトウェアを開発したことが、その後の事業につながる経験となった。
自分が作ったものを顧客が使い、喜んでくれる。その経験から、ソフトウェアと無線通信を組み合わせたさまざまな仕組みづくりへと仕事を広げていった。
転機の一つとなったのが、タクシー会社からの依頼だった。当時、既存のシステムは高額で導入が難しく、もっと安価なものを作れないかと相談されたという。そこからタクシー向けのシステム開発が始まり、GPSを活用した仕組みへと発展していった。
2002年にはモバイルクリエイト株式会社を設立。無線通信を利用した事業を広げ、タクシーやバスの運行管理、IP無線などへと領域を拡大した。
さらに村井氏の関心は、情報通信の先にある機械やロボットへと向かっていく。
以前から交流のあった株式会社石井工作研究所(現・REALIZE株式会社)は、自動車関連や半導体関連の装置を手がけていた企業だ。村井氏は、今後ITが発展すれば、装置やロボットもネットワークにつながり、新しいサービスが生まれるのではないかと考えていた。
同社との事業連携を模索するなかで、モバイルクリエイトによるグループ化が進んだ。2015年に持分法適用関連会社となり、2016年には連結子会社化。2018年には両社の共同持株会社としてFIGが設立された。
分野の異なる企業が一つのグループになることは、容易ではなかった。村井氏によれば、当時は関係者の間でもさまざまな意見があったという。一方、モバイルクリエイトと組むことで新しいことに取り組めるのではないかと期待し、協力してくれる社員もいた。
異なる技術を組み合わせることによって、これまでにないものを作れるかもしれない。村井氏が描いていた未来は、現在のFIGの事業にもつながっている。
未来を想像し、目の前の機会を見極める
村井氏は、昔からSF映画や科学雑誌に親しみ、技術が進歩した先の世界を想像することが好きだったという。
「こうやったらもっと自動化できるんじゃないか、もっと便利になるんじゃないかと、常に妄想しているんです」
装置がIT化し、クラウドにつながり、やがてロボットへと発展していく。そうした未来を思い描きながら、自分たちが実現できるところから取り組んできた。ドローン事業への挑戦も、その延長にある。
村井氏が大切にするのは、新しい技術の登場をただ待つのではなく、日頃から社会の変化を想像しておくことだ。
「チャンスって、目の前に来たときにそれを理解できるかどうかで、ビジネスにつながるかが変わってくるんです」
同じ時代の変化に直面していても、それを事業機会と捉えられるかどうかは人によって異なる。普段から未来を考え、自分なりの準備をしているからこそ、新しい技術や事業の可能性に気づけるという考えだ。
ただし、村井氏は、技術的に実現できることと、事業として成立することを区別している。
新しい発想があっても、社会のインフラや市場の準備が整っていなければ、事業を継続することは難しい。時代を先取りしすぎた結果、事業が続かず、何年もたってから同じようなサービスが社会に広がることもあると話す。
「まず、ちゃんとインフラができているのかということと、時代ですね」
未来を想像することに加え、その実現に必要な環境がどこまで整っているかを見る。村井氏は、テクノロジーそのものを出発点とするのではなく、人々がどのようなサービスを必要とするのかを考え、自社に何ができるかを探ってきた。
FIGが掲げるスマートソサエティについても、その考えは共通している。村井氏が描くのは、技術に詳しい人だけではなく、誰もが簡単にさまざまなサービスを利用できる社会だ。
AIやロボット、IoTなどの技術を通じて、人がより人らしく働き、生活できるようにする。その実現に向けて、自社が担える部分に取り組んでいきたいと語る。
新規事業は「幹から伸びる枝」で考える
未来への関心を持ち、さまざまな技術の可能性を探ってきた村井氏。一方、実際に新しい事業へ投資する際には、明確な判断基準を持っている。
「私のビジネスには幹があって、そこから枝が生えてくるんです」
FIGは情報通信からペイメント、産業用装置、ロボットまで幅広い領域を手がける。一見すると異なる事業が集まっているように見えるが、村井氏によれば、そのすべてに何らかのつながりがあるという。
新しい市場には、すでにその分野で事業を営んできた企業がいる。市場が魅力的に見えるからといって、十分な知見や経験を持たないまま参入することには慎重だ。自社が培ってきた技術や顧客との関係を生かせるかどうかが、事業を選ぶ際の一つの基準になる。
現在、FIGが注力するのはIoT、ペイメント、ロボットの3領域だ。
IoTでは、既存のサービスをさらに深め、顧客に新たな機能や価値を提供することを目指す。ペイメントでは、交通関連で培った技術や経験を基盤に、行政や物販などへ市場を広げていく。ロボットでは、AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)などの分野に力を入れている。
村井氏が特に可能性を感じているのは、AI・データセンター関連の需要を背景とした半導体関連工程の自動化だ。半導体の検査装置やその周辺工程に加え、物流・倉庫・工場などにも事業機会を見込んでいる。人手不足が進むなか、人が専門的な仕事に注力し、それ以外の作業をロボットが担うことにも可能性を感じている。
それぞれの事業は独立しているようでいて、通信や制御、ソフトウェア、ハードウェアといった技術で結びついている。既存の事業を起点に、隣接する市場へ可能性を広げていく考え方だ。
ただし、投資を継続するためには収益性も欠かせない。
村井氏は、これまで積極的に事業投資や人的投資を行ってきた一方、上場企業として株主に業績を示す責任についても語る。新たな技術や事業への挑戦を続けながら、投資の成果を収益として示していくことが、現在の経営における重要なテーマになっている。
未来を想像し、新しい可能性を探る。その一方で、自社の事業とのつながりや収益性を見極める。村井氏の事業選択には、その両方の視点がある。
技術を持つだけではなく、何を実現するか
村井氏がものづくりについて語る際、繰り返し登場するのが、技術を何のために使うのかという考え方だ。
「エンジニアは、できることではなく、何をするかが一番大事なんです。何をするかのためのテクノロジーですから」
自身もかつては技術者として、できることを起点に考えていたという。しかし、技術に詳しいからこそ、自分たちが実現できる範囲で物事を考え、顧客が本当に求めるものから離れてしまうこともある。
村井氏は、まずどのような社会やサービスがあれば便利になるのかを想像し、その実現方法を考えることが大切だと話す。
その考えは、FIGグループが手がけるものづくりにも表れている。
同グループは、ソフトウェア、ハードウェア、ネットワークなどの技術を持ち、設計から保守・メンテナンスまで幅広い工程に対応できる。村井氏は、この一気通貫の体制が、製品の使いやすさや保守性、価格競争力につながると考えている。
例えば、製品を設計する段階から、故障した際の修理やメンテナンスを想定できる。現場へ行かなくても遠隔で対応できる仕組みや、工具を何種類も使わずに分解できる構造など、製品を使い続ける場面まで考えた設計が可能になる。
こうした視点は、実際に保守を担当する人の経験を知っているからこそ生まれるものでもある。
もっとも、FIGが初めから現在の体制を持っていたわけではない。新しいものを作ろうとしても外部企業に引き受けてもらえないことがあり、その場合は自分たちで作るという選択をしてきた。そうした経験が、ソフトウェアとハードウェアの双方を扱う技術の蓄積につながってきた。
現在は、事業規模の拡大に伴い、外部企業との協業も進めている。一方で、協業によって開発が進めやすくなる反面、細かな仕様や製品の完成度について、自社だけでは決められない場面もあるという。
自社で担うことと、他社の力を借りること。それぞれの利点や難しさを認識しながら、ものづくりのあり方を考えている。
グループの力を引き出すために、互いを知る
事業のつながりを重視するFIGにとって、グループ内で互いの技術や顧客を知ることも重要な課題だ。
村井氏は、顧客との接点について、営業担当者が自社の商品を売ることだけに集中していては、新しい事業の可能性を見逃してしまうと考えている。
例えば、ある顧客に一つのサービスを提供していたとしても、その顧客はほかにもさまざまなサービスを利用している。現在提供しているものの少し隣に、既存の技術を生かせる新たな課題があるかもしれない。
そのため、顧客の事業全体に目を向け、どのような困り事があるのかを聞くことを重視している。
ただし、こうした情報を集めることは簡単ではない。
「自分の事業、自分の目の前の仕事が大事ですから」
村井氏は、社員が自分の担当業務に集中するあまり、ほかの事業やグループ会社の取り組みに目を向けにくくなることを認識している。
そこで、グループ横断で事業連携を考えるチームや商品企画のチーム、営業担当者が集まり、現場で得た情報を共有する機会を設けている。村井氏自身も月に一度の会議に参加し、各社の事業や顧客の動向を把握しているという。
話し合うのは、目の前の顧客が求める商品だけではない。その先にある長期的な課題をどのように解決するかについても考える。
新しい事業の可能性を見つけるためには、まず互いの仕事を知る必要がある。事業領域が広いからこそ、情報を共有し、組み合わせを考える機会をつくることを重視している。
一方、課題はグループ内だけではない。多様な事業や技術を持つFIGにとって、グループ全体で何ができるのかを外部に分かりやすく伝えることも容易ではない。
会社案内や展示会、IR、YouTubeなどを通じて発信を続けているが、グループの強みをどのように伝えれば効果的に理解してもらえるのか、その難しさを日々実感している。
挑戦する人材を育てる、資格取得支援の考え方
新しいことに挑戦する文化を維持するため、村井氏が以前から取り組んできたことの一つに、資格取得支援制度がある。
一般的な資格取得支援では、現在の業務に関連する資格を対象とすることが多い。しかしFIGでは、必ずしも業務に直接関係する資格に限定していないという。
「自分が取りたいものなら、何でもいい。ただ、一点だけ、上司を説得してほしいんです」
例えば、現在の仕事と直接関係のない資格でも、本人が取得したいと考えるのであれば、その理由を説明してもらう。将来どのような仕事につながる可能性があるのか、自分なりに考え、上司に納得してもらうことを求めている。
村井氏が重視するのは、資格そのものだけではない。
新しいことを始める際には、自分の考えを他者に伝え、理解してもらう必要がある。その経験を積むことも、制度の狙いの一つだという。
また、幅広い知識や技能を身につけることが、将来の事業につながる可能性もある。今の仕事に直接役立たないからといって、学ぶ対象を狭める必要はないという考えだ。
一方、組織全体に考え方を浸透させるためには、繰り返し伝えることも大切にしている。
FIGでは、朝礼などの機会を通じて、経営理念やコアバリューについて繰り返し話している。村井氏は、一度説明しただけで相手に十分伝わるとは考えていない。
何度も耳にするうちに、少しずつ記憶に残り、考え方が浸透していく。そのために、同じ内容であっても繰り返し伝えるようにしているという。
もっとも、人の行動を変えることは難しいとも認める。理念を覚えること自体が目的ではなく、それぞれの社員が日々の仕事のなかで考え、行動することを期待している。
資格取得によって知識の幅を広げることと、経営理念を繰り返し共有すること。異なる取り組みではあるが、どちらにも社員一人ひとりの考え方や行動に目を向ける姿勢が表れている。
AI時代に、人と企業は何で違いを生むのか
2030年に向けたFIGの将来像を語るなかで、村井氏が重要なテーマとして挙げたのがエンジニアの確保だ。
特に期待しているのは、AIを活用して効率よく仕事を進められる人材だという。
生成AIの進歩によって、これまで専門的な知識や経験が必要だった仕事の一部も、以前より取り組みやすくなっている。村井氏は、こうした変化が企業や人材の競争環境にも影響すると見ている。
知識や技術の面で、従来ほど大きな差が生まれにくくなる可能性がある。その一方で、自ら考えて行動できる人や、人間力を発揮できる人の存在が、より重要になるのではないかと話す。
人材採用についても、若手を育成することだけでなく、経験を持ちながらAIを使いこなせる中堅人材への期待を語った。
ただし、求めるのは個人の能力だけではない。
村井氏は、社員が会社に愛着を持ち、互いに良い関係を築きながら働ける組織を目指しているという。社員のエンゲージメントを高め、会社として生み出した利益を社員にも還元できる仕組みを考えている。
そのためにも、事業の成長と収益性の向上は重要になる。
村井氏は、将来的な企業規模の一つの目安として、2030年に営業利益20億円、ROE11%以上を挙げる。新たな事業への投資を続けながら収益力も高め、株式市場でも存在感のある企業グループになりたいと語る。
そして、企業の将来像について最後に語ったのは、事業規模や技術力だけではなかった。
社員が仕事を楽しめる環境をつくること。その実現への思いも、村井氏が描くFIGの未来に含まれている。
新しい技術に関心を持ち、未来を想像する。自社の強みを見極め、事業として育てていく。そして、その挑戦を担う人材や組織を育む。
顧客のために作ったソフトウェアが喜ばれた経験から始まった村井氏のものづくりは、事業の規模や領域を広げながら、今も続いている。
編集部の視点
村井氏の事業選択にあるのは、未来を想像する姿勢と、既存事業とのつながりを見極める判断だ。技術の可能性を追いながらも、市場の準備状況や自社が培ってきた強みを考え、事業を広げていくことを重視している。自社がこれまで積み重ねてきた技術や経験のなかにも、次の事業へと伸ばせる枝があるのではないだろうか。
取材:ものづくり経営フォーラム編集部/文:亀田君子